2012年8月8日水曜日

社説:危険動物 飼育の意味自体再考を

社説:危険動物 飼育の意味自体再考を

クマやトラなど危険動物の飼育基準について、環境省が見直す方針を決めた。鹿 角市の秋田八幡平クマ牧場で4月、女性従業員2人がヒグマに襲われ死亡した事故を受けての決定である。観光展示向けに飼育されていたヒグマ6頭が、運動場 の雪山を登って逃げ出し人間を襲ったという事故の衝撃が、それだけ大きかったということだ。

 これら危険動物は動物愛護法で「特定動物」と規定され、その種類は約650種。いずれも、人に危害を及ぼす恐れがある動物である。単なる趣味や営利のた め、こうした危険動物の飼育が許可されてよいものなのか。飼育基準見直しに当たっては、危険動物が寿命を全うするまで愛情を注ぎ、最期まで安全に飼い続け るという飼育者の覚悟も当然、問われよう。

 今月3日には同じ鹿角市で、特定動物のヒクイドリ1羽が逃げ出す騒動があったばかりだ。捕獲された場所は住宅街で、近くには保育園があった。鋭い爪を 持った足で人を蹴ったりするなどの危険性が知られており、けが人が出ることもあり得た。身近なところで危険動物が飼育されている事実が、再び浮き彫りに なったのである。

 八幡平クマ牧場の事故は、元経営者と元従業員に対する罰金の略式命令で事件としての幕を引いた。調べの中では、トラクターショベルで除雪した雪を30〜 40回にわたり運動場に捨てていたことが判明。その際、クマは運動場に放されたままであり、排雪でできた雪山を登ってクマが逃げたのは当然の帰結だった。 まさに起こるべくして起きた事故と言わざるを得ない。

 人間の不注意で、飼っている動物が逃げ出すことはある。それが小鳥程度であれば人に危害を及ぼすということは、ほとんどないだろう。しかし、特定動物が 逃げたとなれば、小鳥の場合と同じというわけにはいかない。八幡平クマ牧場の事故のように、人間の命を奪いかねないからである。特定動物の飼育にはそうし た危険が付きまとうことを、あらためて指摘しておかなければならない。

 人間と動物の関わりは古い。異国の動物を展示して見せるという行為は、古くは時の王権の象徴であり、市民への娯楽の提供でもあったといわれる。これに対 し、現代の動物園には教育、レクリエーション、自然保護、研究の四つの役割があるとされ、さらに、種の保存と環境教育が言われるようになった。野生動物を その本来の環境から切り離して飼育するという行為には、それだけ重い責任が付随するということだろう。

 特定動物の飼育基準見直しに際しては、飼育施設の安全基準にとどまらず、飼育者の専門知識や経済基盤、さらには特定動物を飼育することの意味そのものにまで踏み込んだ議論がなされなければならない。八幡平クマ牧場のような悲劇を、二度と起こしてはならない。

(2012/08/07 付)

 

どの動物でも趣味や商売のために飼うべきではない。

 

0 件のコメント: